低血糖症 資料

柏崎良子著 [栄養医学の手引]より抜粋

52章 低血糖症のフォロー

 低血糖症患者が治療によりどのような経過をたどるかは、非常に個人差があります。貧血、糖尿病、甲状腺等の基礎疾患がある時は、それと同時並行に治療を行います。

どのように生活していくか

朝起きて、背伸び体操をしながら、野菜ジュース、牛乳等を飲み身支度を整え、朝食につきます。朝一定時間に太陽の光を浴びる事によって、身体が眠れるホルモン、メラトニンを作る準備を始めるので是非実行してみて下さい。なるべく同じ時間帯が良いです。

朝食後、サプリメントを摂り、3時間後、再びサプリメントを摂ります。昼食と夕食の間が6時間以上空いている様でしたら、夕食までに2回の軽食或いはサプリメントを摂る必要があります。こうして、血糖値の変動を前もって予防して行きます。昼食後と夕食後にもサプリメントを摂ります。寝る1時間前、やはり軽食を摂り就寝します。眠れない人はプロテインにビタミンBコンプレックス50mg(ナイアシンを加えても良い)を摂る事をお勧めします。なぜならプロテイン中のトリプトファンがVビタミンB6の作用によりセロトニンへ、やがてメラトニンに変化して眠気を起こすのを手伝ってくれるからです。暖めた牛乳にも多少その役割があります。

仕事の中で、1時間働いたら息抜きをしながら、肩を回したり、首を回したりしながら小休憩をとるのも大切です。それは、ストレスや低血糖時に分泌されるアドレナリンやノルアドレナリンが血管を収縮させる為、血液の巡りが悪くなり、手足の冷え、筋肉のこり症状を起こり易くするからです。首のあたりが凝ったり、眼の奥が痛んだりした時に、暖めたタオルなどをあてると、やがて血管を開いて楽になります。ナイアシンや軽食を摂るのも良いです。
以上は代表的な治療の例ですが、皆が順調にいくわけではありません。

胃下垂症や胃酸過多の人は、食事やサプリメント摂取も容易でない事があります。その場合、分けて摂る事をお勧めします。下痢や吐き気のある時はなおさらのこと、消化吸収に力のいるプロテインなどは、分子量の小さい吸収の良いものを摂ったり、平均的に量を少なくするなど工夫を要します。下痢が直っても、徐々に量を増やしてゆき、胃腸に急激な負担をかけないように注意いたしましょう。

サプリメントは、風邪薬の様に即座に効くため、と言うよりむしろ、エネルギーを補給するため、及び、身体の栄養欠損を補い代謝を盛り上げ、身体を総合的に回復するために服用するものです。ですから、長期的に見守ることが必要です。症状の良し悪しに関わらず規則正しく摂りましょう。

運動は、初期の内に疲労度が強いときには、無理に行わず、体調が良い時に10~15分位から始めてみて下さい。疲れた時にはもう少し時間を少なくし、体調の良いときを選んで行いましょう。風邪などの肉体的ストレスや寝不足などの精神的ストレス時には疲労感が強くなることがあります。身体の状態に応じて行ってください。家族団欒の食事や、ゆったりとした、くつろぐ時間を確保する事は、自律神経の調子を整える意味で大切です。規則正しい生活をし、生活をエンジョイするように心がけましょう。

低血糖症にアレルギー症状を伴う人は多いです。特にアレルギーをおこしやすい季節には注意して、前もって備えましょう。低血糖症に貧血を合併すると、症状はかなりきつくなります。貧血の治療は、フェリチンがしっかり上昇するまで行いましょう。

治療の経過

1ヶ月:治療して1ヶ月位すると次の様な改善が見られます。
・頭痛がなくなった。
・ひどい気分の揺れがなくなった。
・症状が何から来るのか知ったので、自分が狂人でも憂鬱症
でもない事が判った。
・長時間集中出来る事は何て素晴らしいのだろうと感じる
・不安がなくなった。
・はっきりと考えられる様になり、集中出来る時間が長くなった。
・脳が締め付けられているみたいな感じがしない。
・脳から雲が引き上げられていった感じがする。
・呼吸困難が減った。
・エネルギーが増えた感じがする。引きずり回されている感じがしない。
・気分の揺れが減り、感情的に爆発する事が減った。
・明るい光や大きな騒音に悩まされなくなった。
・甘い物を見ても食べたくなる衝動が薄れてきた。

しかしここで安心してはいけません。これは低血糖症の回復のごく初期の症状だからです。風邪やストレスによって不安定な状態に戻る事はよくありますから、この段階ではまだまだ注意が必要です。例えば、体調が悪くなると、再び甘い物が食べたくなったりします。

ですから無理をしないように致しましょう。長時間人と話をしないようにしたり、買い物や家事仕事も時間で打ち切ったりして、翌日に疲労を残さないようにすることが肝心です。立ち上がりかけた体力を使って、自分自身の身の回りの仕事や食事療法に、そしてようやく運動に時間をかけることができるようになります。

体力が良くなり始めると、人との会話がおっくうでなくなってきます。そこで、周囲の人は、ようやく話し始めた本人の話の内容を愛をもって受け留めてあげてください。そうして徐々に、周囲と自分との交流を普通にすることができるようになるでしょう。自分が決してひとりではない事、この病気から開放されることの希望をいだきます。心と身体のケアが病気を立ちなおせるのに必要です。

2ヶ月目:調子の良い日が多くなったら、そろそろ運動をスケジュールに入れていってください。まず、最初は15分ぐらいから始めます。この時期でも、完全に安定したわけではありません。折角盛り上がった体調も風邪やストレスで一転することがあります。ストレスで疲労した副腎が、血糖調節の為に力を発揮出来ないからです。睡眠不足は更に低血糖の症状を助長します。何故なら脳の疲れにより情報収拾に支障をきたし、アドレナリンやノルアドレナリンを抑制するセロトニンの分泌がうまくゆかなくなると考えられます。この時には2時間毎に食事を摂り、血糖値の調節に心を配ります。ナイアシン、プロテインをいつもより多く摂るようにするのも良いでしょう。風邪には、ビタミンCを増量して風邪が早く直るよう対処するのも良いことです。症状の上では、以前よりかえって悪くなったと感じる時や、そうかと思えば、急に直ったような錯覚に陥いることもあり、自分の身体が適切に診断することがむつかしいこともあるでしょう。そのような時でも、感情に流されて行動に移さないようにしましょう。軽い食事をし、できることなら運動を行い、栄養素を補給してください。身体が回復するのにかかる日数が、以前と比べて少なくなることにきずくでしょう。

3ヶ月目:体力がアップダウンしながら食事、運動、栄養素摂取を行い、日常生活に注意して行ってゆく内に、次第に一旦ダウンした体力が回復するまでの時間が短くなって行く事に気付くでしょう。この時期には身体が少しずつ安定期に入って行きます。運動も長い時間できるかも知れません。自己訓練により、くつろぐことを学び、自分のその日の体調に合わせて、行動範囲を決めることが少しずつ可能となるでしょう。例えば、寝不足をした翌日は精神的に不安定になりがちなので、食事を頻回にしたり、無理な計画を控えたりします。このようにして、身体をコントロールすることができるようになってゆきます。低血糖症では血糖値の急落に伴い、アドレナリンが自分の意志とは関わりなく分泌されるため、情緒的にも、身体的にも不安定な状態となりがちです。自分自身の身体がそのような弱さをもっていることをわきまえ、絶えず、休息をもつようにし、1時間、勉強や仕事に集中したら、筋肉をマッサージするなどして全身の筋肉をリラックスするように努めましょう。

自分自身の体力が上がり下がりするのを体験しながら、社会や環境に対応してゆくためにはどうしたら良いかわかるまで、低血糖症の治療を自己管理していくのには最低6ヶ月は掛かるでしょう。低血糖症やその併発する病気のため、特に精神疾患が伴った場合には、社会との交流が少なく、家族との交わりが殆どで過ごしてきた期間が長ければ長いほど、社会にうまく対応するのには時間が掛かり、躊躇と不安を覚えるでしょう。

元気を出してください。これまでのあなたの精神的な諸問題の原因は分かったのです。でも、理由がわかり、身体的に治ってきても、あなたには身につけていないことがあまりにも多いのです。それを正直に認め、意地を張らずに、少しずつ前進しましょう。

発症時期との関係

A.小学生の時から低血糖症
幼児期から低血糖症のケースは、本人の自覚があまりなく、ただ 「だるい」、「体調が悪い」、「集中力がない」、「ムラ気」、「怒りやすい」、「落ち込んでいる」、その他、親によほど子どもを注意深く見抜くカがないと、ただ「能力のない子」、「しょうがない子」と低く評価されるだけで済まされてしまいます。これに貧血が加わると、起き上がることもできず、寝たままの状態が続きながら、医者に掛かると何にも悪くないと言われ、自他共に低い評価を下して、人格形成上、多くのダメージをもつことになります。

このような場合、学習障害が続いてきたので、その後立ち直っても、学習が追いつかず、また、集団生活にも慣れていないので、長期間に渉る個人的な学習及び、生活指導が必要となってきます。見かけは正常なので、周囲は本人の抱えるギャップを理解することができず、批判的になり、本人が孤立して、正常な生活に復帰することが難しくなります。


B.中学・高校生の時に低血糖症
この場合、健康なときの状態を自覚しているので、低血糖症による身体的・精神的異常に対して強い危機感を抱えています。学校生活の乱れ、受験勉強の遅れ、友人関係の誤解や混乱、周囲の無理解など、情緒の不安定な思春期に低血糖症は多様なダメージを与えています。親が低血糖症について、本人はもとより担任教師にも十分説明し、それが回復不能の精神病ではないことを理解させなければなりません。

体カの低下や寝不足は、異常行動を引き起こし、友人や周囲に不信の気持ちを起こさせ、本人を悩みで引きこもらせる原因となります。従って、以下のことに留意してください。
(1) 過激、急激なスポーツを控える。
(2) テレビゲームやテレビなどは神経を疲れさせるので、本人の同 意、納得の上、なるべく控えるように指導する。
(3) コーヒーや紅茶など、カフェインが入っているものを飲まない。
(4) スナック菓子やソフトドリンクなどを摂らない。
(5) 栄養の行き届いた食事を時間通りに食べ、間食も摂って、3時
間以上食事の時間を開けない。
? 適度な運動は確保し、ゆっくりとした入浴を心がける。
このような生活を最低6ヶ月過ごして、治療にあたると、速やかに回復してきますので、その後は糖分の入ったものを避けるくらい健康になることを本人に説明し、励ますことが必要です。ともかく、青少年の治療は家族の理解とケアの力に掛かっています。


C.青年期に低血糖症が発症或いは判明
まず、親の理解と協力が不可欠です。青少年の場合には、親は責任を感じて協力し努カするのですが、二十歳を過ぎると次のような
親が多くなります。
(1) 子どもの異常に疲れ、回復を信じなくなる。
(2) 教育、育児の義務がなくなったと低い、構わなくなる。
(3) 成人した子どもの世話をするのはみっともない。
(4) 本人の責任と判断で治療をすればよい。どうせ続かないだろう。
(5) この子はだめな子だ。
(6) こんなになったのは親の責任だから、治療などというストレス を掛けず、好きなように生きられるようにしてやろう。
(7) こんな子がいるのは家の恥だ、精神病院に入るか、どこだろう  と好きなところへ出ていって帰ってくるな。
低血糖症に掛かりながら成人した人は,多くの挫折体験があるので、自信がなく、一人で生きる能力も不足しています。治療して、状態が改善しても、最低 2~3年の援助者との共同生活が必要です。一人住まいは食事の準備が難しいので、かえって発症する人が多いくらいですから、奨められません。



D.有職者の場合
長年低血糖症に掛かっている人の場合、精神科や神経科にかかってうつ病や分裂症と診断され、精神安定剤や睡眠薬などを服用している例が多いようです。更に、低血糖症は他の病気も併発していることも多く、頭痛、アルコール中毒、心臓病、関節炎、歯肉炎、不眠、けいれん、甲状腺機能低下、喘息、リューマチ、胃潰瘍などを注意しなければなりません。

仕事をする能力が低下し、慢性疲労症候群などと指摘されるのですが、しばらく休んでいると回復し、復職するのですが、低血糖症の治療をしないと次第に併発する病気も重くなり、就業は困難となります。低血糖症はストレスに弱いので、休憩時問がなかったり、残業が多く、食事が不規則な仕事では重症となります。感情の起伏が激しく、自己コントロールは難しいので、家族の理解とアドバイスが必要で、ビタミン剤を多くしたり、休んだりする調整が欠かせません。

治療には、3度の食事をビタミン剤と共にきちんと摂り、昼食は 砂糖の入らない弁当を持参し、11時と3時の間食を摂ることが必 要です。これは、私たちはペプタブやエビオスを奨めていますが、ナッツ類でも良いでしょう。コーヒーやソフトドリンクは厳禁なので、ポットに健康茶などを持参すると良いでしょう。残業は遅くとも7時までにしてもらい、その場合、必ず5時に再び間食を摂ることです。帰宅後は、温めのお風呂にゆっくりと入り、くつろいで早めに寝ることです。7時間以上の睡眠は必要で、8時間が好ましい  でしょう。眠れない場合が多いのは、低血糖状態になるからで、暖めた牛乳とビタミンBが効くでしょう。休日はゆっくりと寝て、朝風呂を入った後、午前中はくつろぎ、牛後は必ず散歩など1時間以上の過激ではない運動を実践してください。テレビはストレスになるので2時間以上は見ないことです。このような生活を実践すると、6ケ月で格段の改善を果たすでしょうが、治ったわけではありませ んから、 2~3年は続けてください。体力の改善にはタン白質は必  須です。


E.仕事を持っていない方
基本的にはDと同じですが、治療に費用が掛けづらいので、完全な砂糖断ちと食事療法が適切でしょう。治療の希望と努力、動機付けが難しい場合があるので、家族の暖かい配慮が必要です。

精神科に掛かってきた場合

もしあなたが精神科による投薬を受けているなら、勝手に量を減らさない様にすべきです。低血糖症の治療効果は3~4ヶ月(個人差がある)掛かるものですし、精神安定剤はその時点で専門医との相談の上、少しずつ減らして貰って下さい。精神科の薬を急に止めたりするとパニック発作を起こすことがあります。

A.精神科の薬の離脱方法について
日本では少し早いために離脱に失敗する方が多いようです。精神科医ピーター・ブレギン博士は精神科の薬の離脱方法について次のような原則を勧めています。
(1) 複数の薬を服用している場合、1剤から始める。
(2) 1剤を7日~10日に10%ずつ減量する。
(3) 1剤が離脱できたら、2剤目も同様にする。
(4) 最後は慎重にする事。

B.慢性疲労症候群と診断された方
以下の判断基準を見るとわかるように、慢性疲労症候群は低血糖症の症状と非常に重ね合っています。低血糖症であることが血液検査の結果から明確に判明した方に、このように診断されてきた方は非常に多いので、治療によって改善します。

慢性疲労症候群の判断基準
1.微熱10/16(62%)
2.咽頭痛5/16(31%)
3.頚部、腋窩リンパ節腫脹3/16(19%)
4.原因不明の筋力低下13/16(81%)
5.筋肉痛あるいは不快感15/16(94%)
6.軽い労作後に24時間以上続く全身倦怠16/16(100%)
7.頭痛14/16(88%)
8.腫脹や発赤を伴わない移動性関節痛7/16(44%)
9.精神神経症状(いずれか1つ以上)16/16(100%)
10.睡眠異常(過眠、不眠)16/16(100%)
11.発症時、主たる症状が数時間から数日の間に出現 2/16(13%)
低血糖症状のチェック

1.常に起こる 2.しばしば起こる(1週間に1回以上) 3.稀に起こる(1ヶ月に1回以上) 4.全く起こらない
当てはまる番号に○をして下さい。


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