低血糖症 資料

柏崎良子著 [栄養医学の手引]より抜粋

51章 低血糖症の治療3 栄養療法

 栄養療法というのは、分子整合栄養学に基づいた療法で、栄養補給食品を摂ることによって細胞の活性化及び修復を行い、結果として身体のもつ自然治癒力と生命活動を高め、穏やかに病気を癒し、病気の進展を防ぎ(ガンなど)、或いは発病を防ぐという療法です。人間の身体は細胞によって構成され、細胞の全ての活動は栄養に依存しています。殆どの細胞は、常に取り壊され再び造られるという新陳代謝を繰り返しています。栄養素が不足しているので病気に弱く、治癒力も弱い細胞が適切な栄養素を摂ることによって、新たに造られるとき健全に構成され、病気の症状などが改善されていくのです。

低血糖症は、酵素の活性が低下しているため、エネルギー生成がうまくいかず、通常の数倍から数十倍のビタミン・ミネラルを必要とする病気です。食事や運動療法、環境の調整を行いながら栄養療法を行うことにより、酵素の活性の低下を是正してゆくのです。身体全体の回復と関わり合いますから、当然栄養の補給だけではだめで、運動やストレスの解放も必要とします。

栄養素の摂り方は以下のとおりです。


1.プロテイン(タン白質)  1日30g
プロテインスコアの低いものは効果が悪く、分子量の大きいものはお腹が張ってガスがたまることなどがあります。体調の改善と共にこの水準まで増やすことが目標です。

安定したエネルギーの供給源となり、低血糖症状を予防することができます。低血糖やストレス時に分泌されるホルモンは、タン白質をブドウ糖(摂取した蛋白質の50%はブドウ糖に変わります。)に変えて血糖値を上昇させます。ストレス時に分泌されるホルモン(低血糖時にも分泌されます。)の影響により、通常の5-6倍のタンパク質が消耗されといわれます。体タン白を崩壊させないためにも、タン白質の安定補給が必要です。

タン白質は、ビタミン・ミネラルの吸収率を高め、かつ血液に入ってから、それらを細胞から細胞に運ぶ役割を行う。下痢症状の時には、暖めた牛乳にいつもより量を減らして用いる。

2.ビタミンBコンプレックス(複合体)  1日150mgづつ
ビタミンB群は互いに助け合い、体内で物質代謝を司る酵素の補酵素として重要な役割を演じるとともに、神経作用にも重要である。ビタミンB群は11種類あり、それぞれの必要量を全て満たしたコンプレックスとして服用が望ましい。水溶性ビタミンなので蓄積性はなく、一度に大量服用より、数回に分けて摂った方が良い。

一人一人の必要量には個人差があり、同じ人でも環境、ストレスなど状況、体調によって必要量は増大する。めまい、不眠、感情の不安定などがあるときは、ナイアシン1~3gを追加する。ナイアシンは脳の鎮静作用があるので、偏頭痛にも効果があり、頭痛時にはビタミンC1gと共に服用すると良いでしょう。分裂症の幻覚や幻聴をおこす原因となるアドレノクロームを無害なものにする作用があります。

ビタミンB6はトリプトファンがセロトニンに変化する際の補酵素です。そのため、うつ状態や不眠に効果があります。うつ状態では200mg~のビタミン B6を使うこともある。低血糖症では血糖を上昇させるホルモンのアドレナリンが多く分泌されるため、脳を刺激しますが、それを抑制するホルモンであるセロトニンが不足すると多動症を起こすことがあり、自閉や自殺観念、過食や拒食、うつ傾向を起こすことも知られています。このセロトニンを造るトリプトファンは同時にナイアシンアミドを造る素材であるので、ナイアシンアミドが必要であるとき、それを供給することはセロトニンの生成を妨げないためにも重要である。セロトニンは更に代謝されて眠らせるホルモンであるメラトニンに変化していく。ナイアシンにはコレステロールを低下させる働きもある。ナイアシンの副作用は身体がほてることであり、その場合は量を減らして用いる。

3.ビタミンC   1日3,000mg
ビタミンCを体内合成できないのは人間と猿とモルモットだけです。それ故、人間はCを経口摂取しなければなりません。Cには脂肪酸をミトコンドリア内に運ぶアシルカルニチンの生成を助け、結果としてミトコンドリア内でのATP生成を助ける働きがあります。また、活性酸素の消去、コラーゲンの生成に関わる結合組織の構築の働き、免疫の調整、更に、大量摂取(1日10g以上)するとウイルスの殺菌作用も有します。副腎からのホルモンの分泌を助ける作用も有しています。血液の粘性を低下させ、血管壁を強くする作用があるので動脈硬化予防にもなります。

摂りすぎた時の副作用は下痢、時には吐き気や胸やけを起こすことがあります。特に胃酸の多い人は注意が必要である。合成されたアスコルビン酸は天然のビタミンCに比べ、効力は60~70%であるが安価です。摂取量により活性化された酵素のレベルが異なってくるので、決められた量を規則正しく摂ることと、B群と同じく水溶性なので摂りすぎると無駄になるので(1回2gまでは良い)頻回摂取が好ましいでしょう。

4.亜鉛    1日15mg
タン白質、酵素、DNA、コラーゲンの合成に必要であり、亜鉛がなければ細胞が造られません。血糖値を調整するインシュリンの形成を助け、自らインスリンの要素でもあります。膵臓からのインスリンの分泌を促します。血液の状態を安定させ、身体の酸、アルカリのバランスの維持に重要。全ての生殖器の発達、維持に必要であり、前立腺の機能を正常化します。(前立腺肥大症に奏効する。)脳の機能にも大切であり、精神分裂症の治療にも重要。亜鉛が足りないと傷の治りが遅く、脱毛症にもなります。アトピー性皮膚炎には重要な要素です。低血糖症の発症の基本的要因かもしれません。

食品に含まれている亜鉛は食品加工の中で殆ど失われるし、栄養素の乏しい土壌では初めから亜鉛は殆ど含まれていません。血液検査で肝機能検査の一つであるALPが低下する場合も亜鉛欠乏のサインです。亜鉛の代謝にはビタミンB6を必要とします。

神経伝達物質のアセチルコリンはレシチンよりビタミンB5のたすけを借りて生成されます。ビタミンB5は抗ストレスビタミンとして、ストレス時に消費されやすく、通風体質にも欠乏しやすい。

5.カルシウム、マグネシウム
カルシウム1,000mg・マグネシウム500mg
カルシウムは骨や歯を構成するだけでなく、ホルモンの分泌や神経の安定、心臓機能の正常化に必要です。特に、ビタミンB6と共に、インスリンの分泌に役立っています。カルシウムとマグネシウムの摂取比率は常に2対1の割合で摂ることが必要で、このバランスを損なうと糖尿病、心筋梗塞、腎臓結石などを悪化させます。マグネシウムはビタミンB1、B2、B6が必要とする酵素の構成要素であるため、不足するとビタミンB不足の症状をも起こすことになります。リンはカルシウムを減少させる働きがあり、加工食品の保存料やソフトドリンクには多量にリンが含まれているため、カルシウムが著しく減少して骨粗鬆症になります。カリウム、カルシウム、マグネシウムが低下すると、筋肉の痙攣を起こしやすい。

6.ヘム鉄      貧血の度合いに応じた必要量
貧血は低血糖症と似た症状を起こし、腸粘膜からの栄養の吸収も低下させます。貧血は脳における神経伝達物質の分泌に支障をきたします。貧血があると、脳神経だけでなく自律神経の働きも低下します。

7.カリウム
ナトリウムと一緒に働いて、身体の水分のバランスを調整し、心拍のリズムを正常に保つ。ナトリウムとのバランスが崩れると、神経と筋肉の機能が損なわれる。欠乏すると浮腫や低血糖症になる。インシュリンの分泌は尿細管からのカリウムの排泄を促し、同時に細胞内へのカリウムの流入を促すため、血液中のカリウムが低下してくる。コーヒー、お酒、甘いものもカリウムを失う。

8.セレニウム、クロム   1日200μg
クロムはGTF(耐糖能因子)の成分です。セレ二ウムと共に糖の代謝を行い、必要なところにタンパク質を運ぶことを助ける。セレニウムは抗酸化物質です。

9.ビタミンA,E ビタミンA10000U以上、E400U~
共に副腎などのホルモンの生成に役立つ。共に、抗酸化物質です。ビタミンEは血管壁を強め、動脈硬化を予防する他、循環改善作用を有し、EPAと共に、低血糖時、‘キレル’症状を和らげます。

10.レシチン
脂肪肝の改善と脳の働きを活発にする。特にレシチンの代謝産物であるアセチルコリンは記憶に関与する海馬の神経伝達物質として働く。ビタミンB5を補酵素として生成される。

11.EPA、DHA
脳の循環改善作用があり、‘キレル’症状を和げ、脳神経細胞を活発化する。ビタミンCやEと共に、脳アレルギー症状を予防する。脂肪を乳化し、体内の中性脂肪及びコレステロールを低下させる。

*これらの栄養治療食品は服用して1ヶ月~2ヶ月で効果が現れ始めます。この時期、症状的には元気になりますが、下垂体―副腎系をはじめとするホルモン分泌や自律神経機能などが改善していったわけではありません。症状の有無に関わらず、継続治療を行うことが大切です

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