大沢博 当会顧問 挨拶

大沢博教授

 「低血糖症」という病の理解は、現在の人間の“人間らしくない異常な行動や疾患”を理解する上で非常に重要な基礎になるものと思います。理解不能の異常な事件が相次いで起こっています。5月に起きた会津若松の高校生の事件(母親を殺害し自ら警察へ出頭)ですが、あの高校生は精神科の治療をうけておりました。

 そして新潟の女性が横浜で、小さい子供の背中を果物ナイフで刺すという事件。この女性は前の日に精神科の診療を受けたばかりです。知人が新潟で調べて来た情報によりますと、この女性は事件前日、母親と一緒に精神科の主治医に会って診断書をお願いしていました。仕事をするにはあまりに辛く、「休むには診断書が必要なのでどうか出してください。」と切にお願いしましたが、その主治医の先生に「あなた怠けたいのだろう」と言われ、「1日5時間は仕事が出来る」という逆方向の診断書を受取り、泣き泣き病院を後にしたそうです。そしてそのまま母親から離れて行方不明となり、翌日あの事件を起こし、所在が分かったという次第です。まったく見ず知らずの女の子を後ろから果物ナイフで刺すという理解不能な行動と、前日の精神科でのやり取りが無関係とは思えません。

 その横浜で事件の前日ある裁判が行われていました。マンションの15階から小学3年生の子供を投げ落とした事件についての裁判です。この犯人の男性も、うつ病という事で精神科の診療を受けていました。担当していた主治医は、自殺予防関係のシンポジウムなどにも出席している熱心な医師であります。犯人は自殺願望が強いということでその先生の診療を受けていましたが、自殺ではなく他の人間を殺してしまいました。

 短期間の間に相次いで色々な事件が起きています。そういった事件を起こす原因には内面的な問題もあるかと思いますが、そればかりではなく、「薬投与」が引き金になるのではないかと私は疑っております。異常な犯罪を起こした人間が、抗うつ剤などを飲んでいたという例があまりにも多いのです。

 アメリカでは十件以上、学校で少年が銃を乱射して何人も殺すという事件が起きていますが、当事者の少年達は全員、何らかの向精神薬を飲んでいたという報告もあります。そういった部分も含めて調査していかないと、真の原因は浮かび上がって来ません。

 さて低血糖症に関しまして、マリヤ・クリニックを母体としてこの会が発足し、発展しつつある事は日本人の将来に大きな意味を持つ事になります。私は統合失調症という病気も、その隠れた原因に低血糖症があるのではないかと考え、探求してきました。最近は統合失調症の最高の研究者の一人であるホッファー博士が書いた一番新しい本「統合失調症を癒す」を日本語に訳し、現在出版準備中です。

 その本の中で、統合失調症の原因論の中心となっているのが、アドレノクロム‐アドレノルチン仮説です。アドレノクロムはカテコーラミンの一つ、アドレナリンの酸化物質です。

 低血糖状態でカテコーラミンが過剰に分泌され、様々な精神・身体症状を起こすことは、柏崎良子先生の新しい手引の中で非常に詳しく書かれております。この本は既存の精神医学を根底から揺さぶる力を持っていると私は思いますが、はたして精神医学者或いは精神科医がどれだけ読むか、理解するかどうか。これも今後私たちの努力が必要となる大きな課題であると思います。

 また精神疾患の他、子供の多動、注意欠陥多動障害(ADHD)などといった疾患も、低血糖症が潜在的要因になっている可能性があるかと思います。その他様々な要因も考慮すべきですが、低血糖症が及ぼす影響は非常に重大であります。更に認知症の問題、とくにアルツハイマー病も、低血糖の反復による脳細胞の壊死、そして脳の萎縮、このように考えると非常に理解し易いのですが、すでに専門の医学者が、患者の食生活を調査し、砂糖の過剰摂取との関係に気づいております。またもう一つ高インスリン血症の傾向にも気づいております。

 インスリンが過剰であれば基本的には血糖値を下げ、低血糖を起こします。低血糖が反復されれば脳細胞が段々ダメになっていくのですが、「低血糖症」に関しては、理解されていないようです。砂糖の過剰摂取、そして高インスリン血症、そこまで迫ってはいるのですが、もう一押し分かり易く、広く訴えて欲しいと思います。

 私は20年くらい前から、認知症の代表、アルツハイマー病も低血糖が元ではないかと考えています。そしてその原因は食事だけではありません。例えば糖尿病だということで、血糖降下剤を続けて飲まされ、必要以上に血糖を下げていれば低血糖の連続です。

親戚の一人、医師に「血圧が高いから血圧降下剤を一生飲み続けなさい」と指導され、几帳面に毎日言われた通り飲んでいると、70代半ば過ぎで痴呆が始まりました。現在はかつてのその人の姿ではありません。本当に血圧が高いのですかと聞くとそうでもないらしく、もし本当に血圧降下剤服用が原因であるならば、これは「医原性疾患」です。

 大阪のある男性は、息子が統合失調症ということで何年も薬を投与されましたが良くならず、医師に対し「あなたがこういうふうにしてしまった。どうしてくれる! 訴えてやる!」と迫りました。1週間後その医師が自殺したそうです。こういった場合追い詰められる医師も大変だと思いますけれども、広く新しい研究の成果をどんどん吸収して、「薬で治らなかったら、別の」という様な、広い視野に立って取組んで下されば、そのような形で自分の人生に結論を出さず、視野が開けて来るかと思うのですが。やはり栄養関係、低血糖症については殆ど理解されないという傾向がまだまだ続いていくと思います。

 先日お会いしたある精神科医の女性に「大沢先生のお陰で助かりました」と言われました。高校時代から学校で売っている清涼飲料を大量に飲み、甘い物を大量に食べ、不調を抱えながらも何とか医学部に入って医師の免許を取り、現在は臨床医としてやっているようですが、ある時に私の本に出会って生活を変えたらしいのです。そういうことで自らの体験に基づいて、学びはじめている。そういう精神科医もおりますので、今後道が開けてくる事を期待しております。

 日本社会の未来は、大きく言えばこの会の発展にかかっているかと思います。ますます充実した内容の活動が展開される事を願っております。

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