今後の課題

「低血糖症治療の推進に必要な3つの要素とその在り方。」

1. 「医療機関」

A.利益目的でなく、医療機関としての使命を自覚する誠実さ。
栄養医学の個別的対応、個体差の理解なしに、薬をサプリメントに乗り換えるだけの医療機関が増えてきています。栄養療法を実践してきたアブラハム・ホッファー博士やマイケル・レッサー教授その他の医師の本を読んで、気がついた方はいるでしょうか。それは、彼らが実に詳細に患者の状況を調べ、その栄養状態や、ビタミン・ミネラルの聞き具合を詳細に報告していることです。このままでは、栄養医学は信頼性を失い、有効な治療手段としての発展・研究が阻害されるでしょう。
B.自分の理念や考え方を押し付けるのではなく、患者を大事にし、患者に聞く心。
 KYB運動(健康自己管理)は、栄養医学に必須なものです。そして、どのサプリメントがその患者に有効かは患者自体が確認しなければなりません。栄養医学は、分子整合医学に基づいてサプリメントを用いて治療をするものであって、「なんだかわからないけど健康に良い」とか、「~に効く」という類の迷信とは一線を画したものなのです。    さらに、栄養医学は社会や環境の変遷に伴って発病に至る多様な要因を調べ、患者と共にその効能を研究していくものですから、医師の一方的な処方で済ませる在来の医学とは異なるのです。
C.一人ひとりの患者の特徴をつかみ、それぞれに特有なアドバイスをする個別性の確立。
  診察もしないで症状をメールや電話で聞いただけでサプリメントを送るメール会員がいる栄養医学のクリニックがあると聞いて驚きました。サプリメントの内容と効能も教えられていないというのでは、栄養医学をしているとは言えません。同じ症状でも、その人の体質や環境によって、必要とするサプリメントは全く異なる場合があり、有害なときもあります。
D.治療情報や患者データを患者と家族に適切に提供する技術と人材。
医療機関にとって、人材育成は治療の根幹をなす大事な要素です。特に、個別的対応が必要な栄養医学には、患者の体質や環境、その他の要因を見極めて、患者と暖かい心で治療方針を検討し、医師に情報を伝えるスタッフの働きは大きなものです。また、精神的な症状が多い低血糖症には、その症状を理解し、従来の人間関係を分析的に見る観点ではなく、コーチング的な生活指導が必要と私たちは判断しております。
E.治療に必要な資料やサプリメント、そして施設を提供する能力。
血液検査や尿検査などのデータを管理して患者自身のKYBのために提供し、またサプリメントや治療上の効果をデータ処理することが必要です。さらに、食事や環境をコントロールできる治療施設があれば、短期的に大きな病態改善ができるでしょう。精神的な症状が強い場合には、特に必要です。
F.治療を進展させ充実させるための開発と研究。
分子レベルの研究開発によって、多くのことがわかってきました。検査技術の進展も大きく、信頼される栄養医学となるために、常に最先端の医療情報・技術を取り入れながら、人間の尊厳を守る観点をもった治療方法を進展させなければなりません。現在は、アレルギーの理解と治療が精神面での治療に有効であると判断しております。

2. 「患者とその家族」

A.治ろうという願い。
実は、最も大事で必要なことが患者本人の「治りたい」という願いなのです。医療機関も家族も、その本人の願いを阻害するような対応をすると、いくら努力しても症状を改善することが難しくなります。その為には、改善した治療例、病状の原因と分析、家族の愛情、医療機関の暖かい対応などが必要です。
B.病むことや弱きことを大事にする心。
病むこと、弱きことは人生にとって損失ではありません。聖書的な人間の尊厳理解こそが、競争社会の原理によって傷ついた心を癒し、生きる希望を与えると思います。罪性、弱さ、過失、失敗のない人間はいないのであり、また身体的ハンデを持ったとしても、その人の価値は生産性によって評価されるものではありません。日本社会に特有な傷つけあい非難しあう人間関係から抜け出さなければなりません。
C.他人と比較するのではなく、自らの生き方を柔軟に考える。
「人様に迷惑を掛けない。」「稼ぎがある」などの日本社会のコンセンサスに何の根拠があるのでしょうか。弱いからこそ助け合わなければ生きていけないのですが、弱さを認めない人は、その喜びを体験できないのです。長く低血糖症になっていた人は、その基本的性格に応じた長所・短所が顕著に現れます。本来、人間はそういうものであって、そういうものとして自らの職業を選択し、生き方を模索すれば、幸せを達成できるのです。
D.情報や資料を収集し、理解し、それを自分に適用する判断力。
栄養医学は、自己管理をしなければなりません。医者の処方・指示に従うだけではなく、自らの身体を最もよく知っており、大事に思う患者本人が治療に参画することが必要です。そのためにも、単に「健康に良い」という情報に左右されないで、自分の状況を把握して治療を推進する能力を身に付けていくことが大事になってきます。また、そのことによって、他の人への有用なアドバイスができるようになります。それは、さらに、互いの交流を生み出し、助け合いの中で自らの病と体験の意味づけを知るようになるのです。
E.医療機関を信頼し、治療を共に進めていこうとする気持。
低血糖症のもたらす精神的な症状におびえて、迷惑をかけるからと医療機関に通うことや情報を伝えること、治療を依頼することを躊躇する場合もあります。マリヤ・クリニックの診療是は「医者を必要とするのは丈夫な者ではなく、病人です。」(ルカ福音書5:31)であって、問題を持ち、病をもっている人を相手にすることを当然と考えていることをご理解ください。治療の過程での困難を遠慮なく、医師やスタッフを相談し、協力して治療にあたる気持が大事です。
F.治療に必要な資材や経済力を確保する努力。
患者さんの就学・就業状況、その低血糖症を含めた病歴、家族の状況と経済状態、いろいろな状況がそれぞれの患者さんにあります。豊かで、環境の良い人だけが患者ではありません。また、そのように思えても深刻な問題を抱えている場合もあります。それらを率直に医療機関に打ち明けて、それぞれの状況の中での最善な治療をすすめていくことが必要です。そして、場合によっては、治療のために家族と共にいろいろな環境を変えていく決断も必要です。

3. 医療環境

A.低血糖症の周知と保険適用認可
最近は低血糖症も知られるようになって来ましたが、いまだに低血糖症の検査のために5時間のOGTTができる医療機関は日本でも数少ないのが実情で、対処に甘いものを摂るように勧めるところがあるほどです。保険適用がされると、治療費も安くなります。多くの医療機関で対応できるように周知していくことが重要です。
B.栄養医学の社会的制度的認可
代替医療として栄養医学は認証されてきましたが、いまだ治療を目的とした分子整合医学としてではなく、病気の予防効果としてしか捉えられていない。治療には、薬を使うものだと考えられ、栄養について関心を持つ医師は少ない状況です。薬よりも効果を持つ栄養補給が社会的に受け入れられてくるまで、私たちは治療実績を確立していかなければなりません。
C.患者間の交流と情報提供
現在のような医療環境で低血糖症の治療が進展するためには、患者間の相互交流と潜在的患者への啓蒙が大きな役割を果たすでしょう。実際に、マリヤ・クリニックに至る患者さんの多くは、大沢博先生の講演会やインターネットによる情報提供によるものが多いのです。
D.医師や医療スタッフの研修
栄養医学やサプリメント外来を標榜するクリニックは増えていますが、実際には栄養指導や相談を受けるスタッフを備えている信頼できるところは少ないようです。従来の薬をサプリメントに代えるだけでよいと考える対症療法的な理解しかないからです。それは、患者や社会一般の理解にも言えることで、正しい栄養医学を行なえる医師やスタッフの研修を提供していかなければなりません。
E.低血糖症治療のための入院施設の提供
精神的な症状を顕著に現わす患者の場合、家庭では対応できかねないので、入院施設のある精神病院に任せることになり、かえって低血糖症の治療を遅らせてしまうというのが実情です。断食をして食事アレルギーからの副作用を断ってから、食物の影響を調べていくという方法もあります。入院できる治療施設の協力は、低血糖症の治療を含めた栄養医学の進展に必須な課題です。
F.食事や栄養に関する社会への啓蒙
砂糖を多く含んだ食品や飲み物、精製した食物、ジャンクフード、カフェインや刺激物の多いドリンク剤、これらのものを常時摂取していたら、身体も精神も損なわれて当然です。乳児・幼児へ大人と同じ刺激的な食物や消化吸収のできない食物を与えて、アレルギーや生活習慣病を起こさせています。私たちは、これらのついて社会に啓発していかなければなりません。

 低血糖症治療の会は、実質、NPO(非営利活動)ですが、上記のことを積極的に行なうためには、やはりNPO法人として認可されることも検討されなければなりません。現在の活動の課題としては、

  1. 役員や活動スタッフ・ボランティアの整備、募集。
  2. 会員をマリヤ・クリニックの患者以外に拡げるか否か。
  3. 他の医療機関との関係
  4. 募金や寄付の可能性

などを検討して定款を作らなければなりません。

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