低血糖症 資料

柏崎良子著 [栄養医学の手引]より抜粋

50章 低血糖症の治療2 運動療法他

1.運動

低血糖症の治療では、食事療法と同時に大切なのが運動です。私たちが毎日食事をするように運動を毎日行うことが大事です。運動により体内での酸素消費量が増し、血液の循環も促されることにより、胃腸では栄養素の消化吸収力が増し、一つ一つの細胞では栄養素を摂り込み代謝する力が増すのです。心臓のポンプ機能や肺活量もそれに応じて増強します。その結果、低血糖という身体の変化に対し対応することが可能となるのです。さらに、運動により自律神経が強化し、その結果、胃液を分泌したり、インスリンをはじめとするホルモンを分泌したりする機能の調節力が増し、血圧や脈拍も安定します。

具体的にどのような運動をしたらよいのでしょうか。米国のKrimmelは著書‘低血糖症’の中で、運動を3つの種類に分けて説明しています。それを見てみましょう.

1)warming up(準備)運動
筋肉の伸縮運動です。ネコや猿が起きた時にうーん、と身体を伸ばし背伸びするのを見たことがあるでしょう。これと同様に、朝、ベッドの中で2分位背伸びをすると良いのです。さらに膝やかかとを伸び縮みさせ、身体を横に曲げる運動します。低血糖状態ではノルアドレナリンやアドレナリンが分泌されるため、血行が悪くなりがちなので、日頃より手足の指を立てて動かしたり曲げたりする運動を積極的に行うと良いのです。

2) conditioning(鍛練のための)運動
これは筋肉を最高に鍛錬するために行います。
例;かかとで飛び跳ねる運動、爪先立ち運動、自転車、ハイキング、スケートetc.

3)circulatory(循環を促す)運動
この運動は長い時間筋肉を統合的に使うことにより循環器や呼吸器の機能を増強するために行います。
例;水泳、テニス、自転車、縄跳びetc.
これらの運動を、心拍数が1206/分の状態で約800m位行います。

※ 運動をする際に気をつけること
運動は楽しみながら行うべきであり、どのような種類の運動をどのぐらい取り入れるかは、各個人が決めて規則正しく行います。体調が悪い時にはこの限りではありません。時間や種類を変えても良いのです。早朝や気温の低い時には皮膚から多くのエネルギーが奪われるため、食後に行う、保温に気をつけるなどの注意が必要です。場合によっては室内運動に替えても良いです。一般的に、食後1時間は、胃腸での消化のために酸素が使われるので、運動はその後から行った方が良いです。時間的には最も気分の良い時に行います。なるべく空腹時を避け、お腹がすいている時は間食を食べてから行います。

最初はゆったりとした運動から始めて、途中、心拍数が120/分前後になる運動を7分くらい持続して行い、最後はゆるやかに終わります。これを週3~4回行って下さい。開始時はあまり無理をせず短時間より始めて、次第に時間と速度を増やします。季節によりその内容は変化してもかまいません。
例;夏に水泳、冬にアイススケート、スキー、春秋にバイク乗りやハイキング速歩き運動はいつでもどこでも有用です。

2 楽しみと笑い

「陽気な心は健康を良くし、陰気な心は骨を枯らす。」 聖書(箴言17:22)
笑うと、深く息を吸い込むので酸素摂取量が増し、横隔膜がゆれ動くことによりマッサージ効果を与え、同時に近くの臓器の循環を促します。

笑うことにより脳ではカテコーラミンが産生され、これによってエンドルフィンのような、痛みを消す物質の放出を促します。笑うことにより、緊張やストレスから肉体的に精神的に解放されます。低血糖症の人は緊張することが多いため、努めて笑いましょう。

興奮しないで、楽しいこと、肯定的な言葉を語りましょう。楽しむことで、度をこすことなく、2,3人の人と和をもってつき合えるようになります。

酒による楽しみやそれにまつわる環境に注意しましょう。

規則や、勝つことにこだわらずに楽しく行うことを優先させましょう。ピクニックや、海岸での散歩、遊泳、公園での楽しいこと、家族や友達と一緒にどこかに行くこと、ハイキングやサイクリングなど楽しいことは身近にあります。

3 休息

休息は、私たちを肉体的、精神的に活動から解放してくれます。特に昼食後15-30分の休息は消化能力を増し、午後の活動のために備える意味で大切です。眠るのも良いし、良い本を見たり良い音楽を聴いてくつろいだりするのも良いです。外界からの刺激を避け、電話はできるだけ切っておくのが良いでしょう。

低血糖症の人にとって、ちょっとした休息やくつろぎはとても大切ですからスナックをとるだけではなく、是非それを日課に採り入れて下さい。

もし身体が疲れを覚えたら、エネルギーを補給するためおやつを食べてください。大事な会合や旅行や社会行事の前にも、映画や会食の楽しみの前にも、短い休息を取って下さい。

4 くつろぎ

私達はくつろぐことによりストレスと緊張に対しバランスをとる力を養うことができます。くつろぐことによって脳内では、感情の興奮をおこすアドレナリンやノルアドレナリンを抑制するセロトニンが分泌されます。それは感情の興奮を静め、理性的判断をするのを助けてくれます。

ノルアドレナリンは、私達の理性的判断を行う前頭葉46野の神経伝達物質になっていますが、例えば低血糖やストレスでこれらが急激に分泌された場合、前頭葉46野が麻痺状態となり理性的な判断が困難となるため赤ちゃん返りや感情発作、暴力、パニック障害などの症状が起こりやすいのです。

又、セロトニンは神経を1つに集中した時に多く分泌されます。ですから出きる限り外界の刺激を遠ざけ、ゆったりとくつろぐことはセロとニンの分泌を増やし、感情のコントロールを保つ上で大切なことと言えるでしょう。

くつろぎ方には1日の仕事の内容によっても異なります。1日を会社で過ごす人にとって庭を散歩することは大きなくつろぎとなりますが、農家の人にとってはそれほどではないでしょう。

例えば、ちょっとした散歩、いすの上に横になること、すべて外界の刺激を遮断すること、その他いろいろありますが、くつろぎは一人一人にとって価値が異なります。ある人にとっては、自転車で子供たちを園に送ったり、家で楽しみながら皿を洗ったりすることもくつろぎの一つとなります。

5 睡眠

睡眠も、食事と運動とともに大切です。
睡眠の目的は、自分の身体をストレスに対しコントロールする力をつけることです。そしてストレスと、睡眠や休息やくつろぎの中に幸福なバランスを得るためにあります。

睡眠は神経を休め、老廃物を取り除く働きを促します。

低血糖症の人の中には夜型の人が多く、入眠が妨げられたり、深い眠りができなかったり、目覚めが悪かったり、時間に起きられなかったり、夜通し起きていたりする人もいます。

自分の睡眠時間を決め、まず、入眠の時刻を設定するべきです。もし30分早く起きたいなら、30分早く寝るようにします。一旦寝る時刻を決めたら会社や学校が休みの日にもその時刻は変えない方が良いのです。寝る前に軽いもの(プレーンヨーグルト、温めた牛乳etc.)を摂ると良いようです。

低血糖症では、血糖調節に、下垂体―副腎系が主力を担っております。副腎は血糖調節のほか、抗アレルギー、抗炎症作用、塩分調節機能、抗ストレス作用を有しています。副腎の予備機能には限界があるので、アレルギー性鼻炎や寝不足、風邪などの肉体的ストレス、精神的ストレスなど副腎に負担のかかる時には、血糖調節も不安定になりがちです。実際、風邪などをひいた場合、低血糖症の症状が重くなることは良くあることです。そこで、これらの身体の状態にはすみやかに対処し、副腎が血糖調節に十分力を発揮できるようにすることが大切です。逆に、喘息やスギ花粉症や関節炎や皮膚炎などにかかったときには、積極的にくつろいだり、2-3時間ごとに栄養を補給したりするなどして、低血糖を予防し、副腎を疲れないようにすることは、それらの病気を改善させる為に大変重要になってきます。自分の感情や欲求に関わらずそのことを行い、副腎を休ませ、効率よく体力が回復するよう努めましょう。

低血糖症では、アドレナリンやノルアドレナリンの分泌が低血糖時に不意に過剰に分泌されやすいため、感情的に怒りや敵意、落ち込み、イライラといった症状が起こりやすいです。そのような自分に自己嫌悪を抱いたり、とまどう方もおられ、引っ込み思案になったり、ひきこもって社会とまじわらなくなってしまう事もあることでしょう。そのような時こそ、落ち着いて、低血糖に対処し、休息をとり、病気があるならそれに対処していきましょう。その背後に家族の温かい励ましがあれば回復もさらに早くなる事でしょう。

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